統計思考院人材育成事業ワークショップ

数学を用いる生物学:理念・概念と実践・方法論

 

日程

2023年8月28日(月)〜29日(火)

会場

統計数理研究所 3階セミナー室1 (研究所へのアクセス

 


プログラム

8月28日(月)

10:00-10:30 島谷健一郎(統数研)
開催挨拶, presence-only dataとポアソン点過程

10:30-11:50 大泉嶺(人口問題研究所)
多地域レスリー行列の理論と応用~日本の人口減少における国内・国際移動の影響~

12:40-14:00 佐竹曉子(九州大)
大規模同調開花は将来どうなるか?長期データを用いた将来予測

14:20-15:40 岩田繁英(東京海洋大)
空間構造を有する生物資源に対する漁獲枠の決定方法に関する考察

16:00-16:40 青木聡志(環境研)
遺伝的相関の総和を最小にする生物個体の空間抽出とその下での遺伝的多様性

16:40-17:20 井上巨人(神戸大)・石原孝・武沢幸雄・東口信行・宮地麻実・福山千夏(AQUARIUM x ART átoa)・久野宗郎(ASICS)
歩数データから読み解くカメの個性

17:20-
佐藤雄亮(東京大農)
分布拡大条件の繫殖様式による違い:繁殖保証と移住荷重

本間千夏(秋田県立大)
岩手県の落葉樹林における種子生産量の長期パターン:個体群レベル・個体ベースの推定
ほか

8月29日(火)

10:00-10:30 島谷健一郎(統数研)
散布制限を伴う植物個体群動態の空間点過程モデル

10:30-11:50 後藤佑介(名古屋大)
アホウドリの風に対する移動戦略

12:50-14:10 香川幸太郎(遺伝研)
プログラミングで進化の法則を探る:個体ベース・モデルによる雑種種分化の理論研究

14:30-15:10 深澤圭太(環境研)
空間標識再捕獲法による個体密度と景観連結性の推定

15:10-15:50 高須夫悟(奈良女子大)
空間個体群動態の数理:個体ベースの出生・死亡・空間移動を数理的に記述する方法について

15:50-16:30 阪上雅昭(京都大)
変分オートエンコーダによる乳幼児の表出語彙数発達の解析

16:30-17:00 討論その他

ポスター掲示:
森田慶一(総研大)
性淘汰が駆動する装飾形質の多型の創出:オリゴモルフィック・ダイナミクスによる数理モデル解析

西田喜平次(京都産大)
Kernel density estimation by genetic algorithm

支倉千賀子(東京農大)
イネ科タケ亜科 スズダケの開花周期の推定

本間千夏(秋田県立大)、川田尚平(東京大農)、吉田誠(東大海洋研)、ほか

コメンテーター:
深谷肇一(環境研)、黒川瞬(北陸先端大)、ほか

 


要旨・参考資料など

  • 島谷健一郎(統数研)
  • 大泉嶺(人口問題研究所)
    • 【講演要旨】日本の総人口は国勢調査をベースにすると2010年をピークにこの10年余り減少し続けている.主な原因は1976年以降人口置換水準を下回る合計特殊出生率の継続,いわゆる少子化であるがそれを取り巻く環境は様々である.例えば合計特殊出生率の低い東京など都市圏への人口一極集中や移民制度の制約など,他にも様々な社会的要因が存在する.本研究ではそうした社会的背景や時代背景ではなく,人口動態を決定づける三つの要因,出生,死亡そして移動(国内・外問わず),のデータを元に,多地域レスリー行列を用いて人口減少の要因を解析する.多地域レスリー行列は個人と先祖の移住経路による固有システムの解釈ができるので,本講演では移住経路による解釈を用いた多地域レスリー行列の理論と応用により我が国の人口減少について議論したい.
    • Sensitivity analysis on the declining population in Japan: Effects of prefecture-specific fertility and interregional migration. PLOS ONE.
    • 講演スライド
       
  • 佐竹曉子(九州大)
  • 岩田繁英(東京海洋大)
  • 青木聡志(環境研)
  • 井上巨人(神戸大)
    • 【講演要旨】生物の個性(一貫した行動)は、実験下で繰り返し行動観察をすることによって検出されてきた。しかし、飼育下において、個性の中で重要な要素である活動量や人・同種に対する応答を定量化することは容易ではなかった。そこで本発表では、水族館で飼育されているゾウガメの個性を点過程モデルによって解析し、これらの個性を定量化することを試みた。
    • https://inaoto-status.jimdosite.com/
       
  • 後藤佑介(名古屋大)
  • 香川幸太郎(遺伝研)
    • 【講演要旨】生命の進化を理解するためには、進化の歴史を調べることに加えて、進化を駆動する普遍的なメカニズムを解明する必要がある。本発表では、進化のメカニズムに迫る手段の一つである個体ベース・モデルによる進化シミュレーションを、私自身の研究を例に紹介したい。この手法は、コンピューター・プログラム上に仮想的な生物集団の模型を構築し、その進化をシミュレーションすることで現実の生物にも適用可能な進化の法則を探索するものである。発表では、はじめに個体ベース・モデルの基礎と利点・欠点を解説する。続いて、私が行っている個体ベース・モデルによる雑種種分化の研究事例を紹介する。この研究では、異種の生物どうしが交雑した際に別種由来のゲノムが混ざり合うことで生じる進化動態の解明を目指した。そのために、ゲノム上のたくさんの遺伝子座を考慮し、突然変異と染色体交叉によるゲノム進化をシミュレーションする個体ベース・モデルを構築した。共通祖先から分岐した二集団が一定期間別々に進化した後に交雑するシナリオを想定することで種間交雑を再現した。これまでに様々な異なる生態的・環境的・地理的な条件設定の下でシミュレーションを実施し、種間交雑が新たな種の急速な進化(雑種種分化)を促進しうることを確認した。また、雑種種分化が起こりやすい・起こりにくい条件についても多くの示唆が得られた。さらに、雑種種分化の駆動メカニズムとして、異種由来のゲノムが組み合わさることで多様な新奇表現型を持つ雑種が同時的に生じる効果が重要な役割を果たすことが分かった。これは、交雑による表現型多様性の増大が親種の占めていた進化的安定状態からの一時的な離脱を引き起こし、新たな進化的安定状態へ向かう進化を可能にするためである。シミュレーションの結果は実際に雑種種分化が起きた系統の進化史とも整合することから、進化の実例に基づく洞察の一般化に貢献するものだと考えている。
    • 講演スライド
    • Kagawa, K., & Takimoto, G. (2018). Hybridization can promote adaptive radiation by means of transgressive segregation. Ecology Letters, 21(2), 264-274. Link プレスリリース
    • Kagawa, K., & Seehausen, O. (2020). The propagation of admixture-derived adaptive radiation potential. Proceedings of the Royal Society B, 287(1934), 20200941. Link プレスリリース
    • Kagawa, K., Takimoto, G., & Seehausen, O. (2023). Transgressive segregation in mating traits drives hybrid speciation. Evolution. Link
       
  • 深澤圭太(環境研)
    • 【講演要旨】空間標識再捕獲モデルは空間的に配置された複数の検出器によって得られた標識再捕獲データから個体密度を推定するための統計モデルであり、生態学や野生動物管理の評価において幅広く用いられている。本研究では、景観構造によって異方的なホームレンジを形成するメカニズムを組み込んだ空間標識再捕獲モデルを開発し、個体密度に加えて場所間の個体の透過性を推定することが可能となった。移動シミュレーションにより生成した疑似データに対して本手法を適用したところ、個体密度やホームレンジ形状をバイアスなく推定できることが分かった。また、推定値はデータ生成プロセスと利用可能な景観データの解像度の不一致に対して非常に頑健であった。本手法は、不均一な景観における個体・個体群レベルの現象の統合的な理解に有用であると考えられる。
    • 講演スライド
    • https://doi.org/10.1101/2023.03.01.530712
       
  • 高須夫悟(奈良女子大)
    • 【講演要旨】空間個体群動態を個体ベースで実装するアプローチに点パターンダイナミクス(点過程)がある。本講演では、微分方程式で記述される非空間個体群動態モデルを点の出生・死亡・移動を含む点パターンダイナミクスに拡張し、点密度とペア密度の力学系を導出するモーメント法 Law and Dieckmann 2000, Dieckman et al. 2023を紹介する。さらに、点の状態(Susceptibleや Infectiousなどの離散状態)変化を考慮した幾つかのモデルを紹介し、個体ベースルール(出生、死亡、移動、状態変化)を点密度とペア密度の力学系として記述する方法、さらに導出した力学系をどう解析するかに関して話題を提供する。
    • 資料1
    • 資料2(昨年7月のWSで使用した資料)
       
  • 阪上雅昭(京都大)
    • 【講演要旨】人間の発達や行動の変化を自己組織化現象として理解しようとするダイナミックシステム・アプローチが発達心理学の分野で提唱されている(ref1).これは物理学で開発された自己組織化や相転移という概念を人間の発達に援用しようとする試みである.私たちは,このパラダイムを乳幼児の言葉の発達に適用し,胚性詞仮説を提唱・検証している(ref.2).これは,乳幼児は最初ことばの出来事として認識し(胚性詞)その後,名詞や動詞への意味分化が生じるという考えである.この意味分化をモノおよび行為アトラクターへの分岐として捉えている.
      本講演では月齢16から30ヶ月の乳幼児のべ5520名に実施した英語マッカーサー乳幼児言語発達質問紙(CDI) による調査データ(ref.3)の解析結果を報告する.これは680語を選び,対象となる乳幼児がそれらの語を発話したかどうか調査したものである.調査データを機械学習で用いられる変分Auto Encoder という手法で解析することにより,語彙の発達の様相や各語の特性が定量的に議論できることをします.
    • Ref.1 E.テーレン,L. スミス 発達へのダイナミックシステム・アプローチ 新曜社
    • Ref.2 H.Hagihara, H.Yamaomoto, Y.Moriguchi, M.Sakagami, Cognition 226 105177 (2022)
    • Ref.3 Wordbank, An open database of children’s vocabulary development
    • 講演スライド
    • 論文(「認知科学」に掲載予定)

 


問い合わせ

島谷健一郎(統計数理研究所)
メール:shimatan@ism.ac.jp
電話:050-5533-8590