京都大学舞鶴水産実験所

生態学統計学という、2つの異なる分野の交点で研究を進めています。 野外生態データに適合する新しい統計モデルを構築することで、 個体群や群集の動態、個体数推定、種分布モデリング、生物多様性の進化、保全など、 生態学の幅広い問題に取り組んでいます。 特に、潜在変数を含む統計モデル(階層モデル)を用いて、 生態研究におけるデータ生成過程を明示的にモデル化しています。 こうしたアプローチにより、データの背景にある生態的な変動と観測による付加的な変動や検出バイアスを切り分け、 生態学的に関心のある状態や過程の正確な推測が可能となります。

海産無脊椎動物の個体群動態の解明

長期生態観測から得られた個体群サイズの時系列を解析することで、海産無脊椎動物の個体群動態を研究しています。 生物要因と環境要因のそれぞれが個体群成長に及ぼす影響や、その時空間的な変異を定量化し、 個体群サイズの長期変動のパターンや統計的特性との関連を明らかにしています。

Key words: 密度依存性・個体群調節・個体群同調・Taylorの冪乗則・空間スケール・状態空間モデル・岩礁潮間帯・イワフジツボ(Chthamalus challengeri)・キタイワフジツボ(Chthamalus dalli)・シオダマリミジンコ(Tigriopus japonicus

観測誤差に頑健な群集動態の推測

固着性生物の群集動態は、しばしば推移確率(個々の生態状態の置き換わりの生じやすさ)によって要約されます。 しかし、ある種の観測誤差がある状況では、推移確率の正確な推定は難しいことが知られています。 私は、群集の長期時系列データから推移確率を頑健に推定するための統計モデルを研究しています。

Key words: マルコフ群集モデル・多状態動的サイト占有モデル・分類誤差・カーネル平滑化・空間相関・岩礁潮間帯

環境DNAによる個体数や種多様性の推測

環境DNA分析は、野外での高感度の種検出を可能とする新しい技術です。 私は、環境DNA分析から生物の個体数や種の多様性を正確に評価するための方法論を研究しています。

Key words: トレーサーモデル・定量PCR・計量魚探・マアジ(Trachurus japonicus)・舞鶴湾・メタバーコーディング・MiFishプライマー・多種サイト占有モデル・偽陰性検出誤差

広域の種個体数分布の網羅的解明

種の個体数は生物多様性の重要な要素の1つですが、大きな空間スケールでの知見はほとんど得られていません。 私は、群集レベルの検出・不検出データと種の地理分布情報を組み合わせることで、 木本植物の種個体数の地理的パターンを網羅的に明らかにする研究を行っています。 広域で推定された種個体数の分布は、生物多様性の進化や保全に対して重要な示唆を与えます。

Key words: 植生調査・木本群集・生態学的ビッグデータ・生物多様性と生物地理学の統一中立理論・種分化率・レッドリスト・データ統合・階層モデル

月経周期の逐次ベイズ予測

月経周期に関連して振動する基礎体温の時系列に基づき、周期の位相や次の月経開始日をリアルタイムに予測する統計的枠組みを構築しました。

Key words: 状態空間モデル・逐次ベイズフィルタ・月経周期長・周期現象